2015年6月13日土曜日

Marinair&St.Ives T1444


オールドNeveのマイク用トランスです。
左が世に有名なMarinair(マリンエア)製、右がSt.Ives(セイントアイヴス)製です。
Neveの資料だとmodel 10468とかT1444と呼ばれているトランスで、2つとも同型のもの。



入力側は直列で1.2kΩ、並列に繋ぐと300Ωというインピーダンスで、初期のNeveはだいたいこの値が基準になっています。出力側が4.8kで、昇圧比でいうと+12db程度のゲインがあります。入力インピーダンスが低く、2次側でラインレベルのインピーダンスに変換される仕様になっているのがマイク用トランスの特徴です。

近年、イェローラベルのMarinairは現在やたら神格化されるようなデバイスになっており、これでないとオールドNeveの音ではないとか、音を通すだけで音が良くなるとかいい加減なことが書かれまくっていますが、重要なコンポーネントであることに変わりはありません。

最初に書いたとおり、このふたつはデータ上は10468という同じトランスです。当時Neveの需要に応えるために2つ以上のサプライヤーがあったことになります。どちらが古い・新しいということはなく同じ時期にかなり混在しており、1073でも時期のよってインプットはSt.IvesだけどアウトだけMairnairとか、その逆とか沢山あります。どちらかが優れていてどちらかが劣っているということでもありません。

実際に治具を作ってリスニング・テストをしてみると、ほぼ同じ音なんです。厳密に言うと製造元が違うので微細な違いはあるのかもしれませんが音の傾向はほぼ同じです。

現物もMarinairとSt.Ivesではスペック上にない些細な違いがあるので見てみましょう。


トランス表面の筐体の素材が若干違います。
大きさもほぼ同じですが、St.Ivesのほうが横幅が1.0mmぐらい大きいです。


端子側。ピン配も全く同じです。(St.Ivesは使わないピンが1本あります)
このトランスは金属ケースの中に入ったコアの周りを絶縁材でモールドした構造をしているのですが、その素材がそれぞれ違います。Marinairはベークライトで固められていますが、St.Ivesは白いシリコンのようなやや弾力のある素材でモールドされています。
ここの違いが音に多少影響があったのかもしれません。


■余談

よくこれらのリイシュー製品であるCarnhil(カーンヒル)のトランスはどうですか??という質問を受けます。

CarnhilのトランスはSt.Ivesのパテントを持った後継会社が製造しており、スペックはほぼそのまま真似して作られていますが、やはり音はオールドのトランスと違います。そして良い悪いは別として、そのサウンドは別物です。Carnhilのトランスは5-8kHzが少しピーキーに出る傾向にあると感じています。(特殊なエージングによって緩和することは可能)

原因は色々あると思いますが、やはりコア素材が今と昔は違うというのがあると自分は判断しています。

良くも悪くも、MarinairとSt.Ivesは40年近く前の英国製の鉄でコアが作られていますが、現行品であるCarnhilは今の鉄です。コアの質が良くも悪くも別物であるといえます。トランスという単純な構造の部品ゆえにその影響が大きく出てしまうのは仕方がないのかなと…。

最近AuroraAudioというNeveのスタッフが開いたメーカーや、AMS Neveがマリンエアの商標でトランスを自社製造しているらしいですが、それも同じことで、同じ作り方をしたからといって同じ音にならないのが現状だと思います。今の鉄で作られたトランスは現代の音しか出ません。

逆に言えばオールドのトランスとアンプカードさえあればオールドNeveの音は出てしまいます。その件はまた別の記事で。

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